第5週に手をつくる

眠られぬ目をその鸚鵡に凝らすうちに、鸚鵡の翼の繊細な彫り目までが浮き出て来て、その煙るような青の裡に透明な光がこもり、鸚鵡がそのまま幽かな輪郭だけを残して、融けかけているような異象におどろいた。そして知ったのは、窓の帷のはずれからたまたま月の光が玉の鸚鵡にだけ注いでいることである。彼は帷を乱暴にひらいた。月は中天にあり、月かげはベッドの上いちめんにひろがった。
(三島由紀夫「春の雪」より)

月が描かれている物語の6回目は三島由紀夫の作品を取り上げてみたわけですが、「春の雪」は「豊饒の海」という四部作の第一作にあたります。
続く場面に四部作全体を通して重要な意味を持つ描写があるのですが、それを書くためにわざわざ月を用意したのだとわかります。
なんという緻密さ、さすがは三島由紀夫です。
よく、三島由紀夫の文章は格調高く音楽的と言われるようですが、実際に声に出して読んでみると。
ねむらるぬめ…ねむられねめ…ねむれら…あれっ?
気を取り直して、四部作の中で一番好きなのは最後の「天人五衰」です。
でも、四部作の中で一番知られているのは「春の雪」だと思います。映画化もされているし、連作だと最初のだけ読んでみるという人もいるでしょうから。

第五週は教室がお休みになるので、その間に手でも作りましょう。
手を作る第五週、手の五週、天人五衰…うわー、すげー無理だ。ごめんなさい、と、とりあえず謝ってしまいましょう。

手を作るよ

用意するのは針金、脱脂綿、ボンド、糸、そして画像にはありませんが、もちろん粘土もです。
糸はレース糸でもいいのですが、あまったボタンつけ糸を使い切りたいので、使います。
ちなみに使ったのは白い方。黒いのはシャツのボタンが取れそうなので、付け直すついでに並べました。
 
 

球形なるもの

「この曲が水の流れを連想させるとでも?」
「水面に映る月の光……。風にあおられて、その形が揺れ、ひきちぎられる姿を想像します」
「“月光”ね……。お前さんがそんなロマンチストだとは思わなかったぞ」
「じゃ、どう思ってたんです?」
「計算高くて生意気で、嫌なガキだと思ってたさ」
「それが情感豊かな少年になったのだとしたら、教育者として自信を持っていいんじゃないですか」
(森雅裕「ベートーヴェンな憂鬱症」より)

月に係わる物語の5回目は、ベートーヴェンとチェルニーがピアノソナタ14番「嬰ハ短調」に関する師弟漫才を繰り広げる場面です。
もちろんフィクションなので、この曲の「月光」という通称はベートーヴェンがつけたわけでもないし、弟子のチェルニーと日々師弟漫才をやっていたという事実も定かではありません。
ただし、作者が極度のベートーヴェンおたくなので、作中のベートーヴェンはかなり男前に描かれています、絶対に近づきたくないくらいに。いやいや、近寄りがたいくらいに。まあ、同じことですが。

さて、あっくん1号(仮)の腕に関節球をつけてみました。
 
 

ブラウンは茶色

その途中、孔雀と緑の芝生を通り過ぎたが、青い月光に照らしだされた芝生は孔雀に劣らぬほど青く見えた。
(チェスタートン「The Poet and The Lunatics」より)

月に関係する物語の4回目です。
タイトルにある“Lunatic”は日本語の意味をここに書き記すのは控えますが、「ルナ」つまり「月」からきた言葉で、西洋では古くから月が人を狂わすと信じられてきたそうです。
“Moonstruck”もだいたいそういうことを表しているようで、西洋人は月によっぽどコンプレックスか強いか恨みでも持っているのかと思いますが、西洋人だったことがないので、西洋人の気持ちはわかりません。
仮に自分が西洋人だとしても、すべての西洋人の気持ちがわかるわけでもないので、あまり意味がありませんけれど。
チェスタートンというと、ブラウン神父のシリーズが有名ですが、私はガブリエル・ゲイルを主人公にした一風変わった人々の織り成す出来事、あるいは事件を綴ったこの短編集が好きです。

さて、制作中のあっくん1号(仮)に目玉を入れてみました。
目の色でイメージが変わるのでいつも悩むのですが、今回は髪の色を茶系にするつもりなので、目玉もゴールド、ブラウン、トパーズの中からゴールドを選択。
 
 

矛盾

「もしおれが月を手に入れていたら、もし愛だけで充分だったら、すべては変わっているだろう。
この渇きをどこで癒せばいい。どんな心、どんな神が、湖の深さをたたえているのか?」
(カミュ「カリギュラ」より)

月が登場する物語、第三回目。
カミュのこの戯曲のせいで、どうしてもカリギュラには月のイメージがつきまといます。
言うまでもなく、カリギュラの甥がやはり暴君の呼び声高いネロです。
そもそも、ユリウス・クラウディウス朝というのは皇帝が5人しかいないのに、うち3人がかなりアレな皇帝で、しかも初期は3人とも善政を行っていたからよけい始末に負えません。(4人目は頭角を現したり暴君になったりする前に毒殺されてしまったので、あるいは他の3人を上回る暴君になっていた可能性もないとは言えません。)
100年足らずの間に3人も史上稀に見る暴君を輩出しているのに、懲りもせずにまたまた皇帝を擁してしまうローマ市民って、どれだけM体質なのかと思います。
続く皇帝たちもたいがいなもので、ローマ市民の我慢強さには頭が下がります。1年の間に3回も皇帝が変わるということもありましたねえ、暗殺されたり暗殺されたりして。我慢の甲斐があって、のちに5賢帝と呼ばれる人たちがでてくるわけですが。
そうして見ると、皇帝の圧政に散々苦しめられて、やっと革命を起こして皇帝を倒したら、今度はレーニンとかいう独裁者が出てきて、ペレストロイカでやっと社会主義が崩壊したかと思ったらまた大統領という名の独裁者が現れて、というロシアの独裁者好きも大したものです。
つくづく、世の中は矛盾に満ちたものだと思います。
そういえば、ロマノフ王朝とローマの間にも因縁めいたものがありましたね。ロシアの紋章も東西ローマを表した双頭の鷲でした。

ところで、高いところが好きなせいで、実は極度の高所恐怖症なのにあまり同情されなくて困っています。
どのくらい高所が苦手かというと、まず、歩道橋は歩けません。電車のホームでも足ががくがくします。屋上なんて、とんでもないです。崖の上で犯人が告白しているのをテレビで見るだけで眩暈がします。なので、2時間サスペンス・ドラマは見ません。
でも、ガラス張りならどんなに高いところでも、足元に奈落が広がっていようと平気です。ガラスが割れない限りは。
そんなわけで、高いところに行ってきました。

夜景

東京タワーが下に見えます。
月並みですが、地上の光がまるで宝石箱をひっくり返したよう。
あー、やっぱり高いとこ好きですー。でも、やっぱり怖いです。
決して高所恐怖症を克服したわけではありません。
そもそも、高さというのは絶対的なものではないので、月に誰か住んでいたら、地球人を見てあんなに高いところにへばりついて怖くないのかと思うかもしれません。

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そんなこんなでハムレット

そして、別の機会というのは意外に早くやってきたのでした。
というわけで、独断と偏見しかないハムレット考。
いきなり、ハムレットは何歳なのかというどうでもいい疑問に迫ります。
ウィッテンベルク大学在学中、マザコン、優柔不断、オフィーリアとのあれこれ、デンマークの王子様。
ということから20歳前後だろうと思われがちですが、第五幕第一場の墓堀りの台詞から具体的な年齢が明かされます。
ハムレット王子が生まれた日から墓堀りをやっていて、はや30年。
つまり、オフィーリアのお葬式の時点でハムレットは御年30。
えー!?と思いますよね。
当時の船旅は時間がかかるので、第三幕第一場の「生きるべきか死ぬべきか」の場面から月日が経過していたとしても、30歳はないわー。
とはいえ、23年前から死んでいる頭蓋骨の主のことをしっかり覚えていたりするので、30歳というのはほぼ間違いないでしょう。
太宰治の「新・ハムレット」では、ハムレットの年齢は23歳ということになっています。まあ、別物ですから。
でも、20歳でも30歳でも、父親の前王の跡を継げずに叔父に王座を取られてしまうあたり、しょーもない奴なのかというと、たぶんそうだと思います。
それに、昔の人は、それも王族だと結婚が早かったイメージですが、オフィーリアとグダグダやってたり、ほんと面倒くさい人です。知り合いにこんなのがいたら、絶対に嫌です。できることなら、お近づきになりたくありません。たとえ、王子様でイケメンであったとしても。
いや、王子様でイケメンだったら、ちょっとは考えてしまいますわね。
ローゼンクランツやギルデンスターンは立場上、嫌でもかかわらなくてはならなかったのでしょうが、しかも殺されてしまって気の毒としか言いようがありません。
たとえて言うなら、たまたま悪代官の家臣だったためについでに退治されてしまった人たちのよう。
それに比べて、ハムレットの後追いをしようとして止められたホレーシオ。どんだけハムレットが好きなのですか。
ちなみに、映画だと、この後追いしようとするシーンが省略されることが結構あります。だって、ねえ…。
ハムレットがなかなか復讐に踏み切れずにくよくよ悩むのに比べて、似たような立場のノルウェーの王子、フォーティンブラスという人がいますが、この人は父親をハムレットの父親に殺されていて、しかも領地を取られています。
でも、ハムレットみたいに思い悩むことはなく、領地を取り返すために軍隊を組織したりと、かなり行動的です。
父親の方も、ある意味では自業自得だったりするわけですが。
ところが、ハムレットの叔父にあっさり説得されて、せっかく軍隊を作ったからって他の国を攻めに行ったり、要するにバカなのかしら。うん、おバカよね、おバカだと思う。
きゃー、全国のフォーティンブラス・ファンのみなさん、ごめんない、ぶたないでー。
最後に、あの有名な「生きるべきか死ぬべきか」のシーンについて。
このシーンは聞かせどころだからなのか、動きもないし、かなり退屈です。アクティブにやられても、逆にわざとらしいですし。
なので、ここで寝てしまう人がいても、責めないでください。
と、ここまで書いてきたのですが、ハムレットに関しては自分の持つイメージが強すぎて、それはもうシェイクスピアの原作ともずれてきているのかもしれませんが、どの映像作品や舞台作品を観ても、これじゃない感を持ってしまいます。
それは演じる人や演出する人にはまったく責任のないことなのですが。
でも、いつの日か自分のイメージに近い「ハムレット」を観ることができたらいいなとは思っています。
そういえば、ゼフィレッリの「ハムレット」まだ観てなかったっけ。

花火

ラストで撃ち放たれる大砲のイメージ。
噓です。せっかく撮った画像で使わなかったのがもったいなかっただけ。

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理由は言わない

すべてのものがガラスの箱に納まってシーンとしている深夜 遠い街燈の下を ゼンマイ仕掛の木馬が沢山走ってゆくのが見えた
(稲垣足穂「一千一秒物語~月のサーカス」より)

月が出てくる物語と言って、やはり忘れてはいけないのが稲垣足穂ですよね。
二回目にして、すでに月のネタが尽きそうです。ダジャレではありません。
それはともかく、プレミックスで男子人形作り始めています。
ラドールに比べて乾燥するのが早い気がしますが、完全に乾燥してしまうと硬くなってナイフなどで削るのにはよくても、やすりで磨くとどうなるのか今のところ不明です。
完成予定は56センチですが、7頭身にしたので、ほぼ同じサイズの黒アリスシリーズに比べて顔が小さい小さい。
制作途中の生首画像があります。ご注意ください。
 
 

怪奇な現象

─明日が皆既月蝕の夜かい。
─そうさ。
─じゃあ地球に食われちまうのか。
─いいや、明日になったらまた鏡の海を越えて向こうへ行くだけさ。鏡の海の果ては、行く先々で千夜一夜だ。
(野田秀樹「少年狩り」より)

昨日は皆既月食でした。
途中で月が雲の中に入ってしまったので見るのを諦めてしまったら、その後雲の晴れ間から見事な月食が見えたそうです。諦めるのが少し早すぎました。

月食

そういえば、月が好きだと思いだした秋の夜。
実際に見る月も好きですが、月の出てくる物語も好きです。
皆既月食で思い出すのが前述の「少年狩り」です。
バカバカしさにコーティングされて、いくつかのハードな悲劇をはらんでいます。
そのうちのひとつ、子供たちが巻き込まれた悲劇のことは小学校の先生にたびたび聞かされていました。だから、なおさら真に迫るものがあったのかもしれません。
初心に帰って、月明かりの似合う人形が作りたくなりました。
月が地球に侵食されるこんな満月の夜は狼男が中途半端に変身して涙目になっていたりするのでしょうか。

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初プレミックス

たまには、人形の話題を。
今まで人形用の石塑粘土はラドールを使っていたのですが、このたびプレミックスに初挑戦することにしました。

使用粘土

上がラドール、下がプレミックス。
見ればわかりますね。
使った感じ、ラドールと比べると、乾燥する前は柔らかくて、乾燥すると硬いです。
で、やっぱり軽い気がします。
長年ラドールばかり使っていたので、いまいち扱いがわからないのですが、突然、男子の人形を作りたくなって、気分転換に初めての粘土を使ってみることにしました。
作りたい人形のイメージはいくつかあります。
このところ続いていた話題の傾向からお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、シェイクスピアから題材をとるとしたら、やはりハムレットでしょうか。
とは言っても、シェイクスピアの時代の衣装にはしないつもりです。
そういえば、とある劇作家がローマ帝国を舞台にした戯曲の上演の条件として、「ローマっぽい舞台のセットはやめてよねー」とか言ったそうですが、ハムレットっぽい衣装じゃなくても作る人がハムレットっていったらハムレットなのです。
ちょっと意味が違うかな。
でも、ヘンリー八世っぽい衣装は一度作ってみたいですね。

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